仮歌というきっかけ

ここ7〜8年以上、表舞台での仕事はしていません。

というより、それ以外の制作や身辺状況のために

とても集中して舞台に立つ余裕はなかった、

というのが本当のところ。

 

ずっと裏方の制作に携わっていて、その間色んな形で

色んな裾野を広げる経験をしてこられたかなと思います。

 

幼い頃から歌うことを日常に生きてきた私にとって、

歌とは自己表現の最大の手段と思っていたのですが、

そうではない歌の在り方、価値というものを教えてくれたのが

仮歌というヴォーカルジャンルかなと思っています。

 

細かく数えてないですが、今日に至るまで多分300〜400以上は

やってきたと思います。もしかしたらもう少しあるかもしれないけど。

 

アーティストとして活動している時には似ても似つかないような

ジャンルの歌を主に歌います。

時々アニメ系でロックっぽいのとかあると、ちょっと懐かしい気持ちで

昔の感覚を思い出しながら歌う機会もありますけどね(笑)

 

歌唱指導も仮歌も、共通しているのは

それらの仕事に取り組むことで自分でも気づいていなかった

「自らの手の内」を結果的に知ることができる、ということ。

これが私にとっての一番の醍醐味です。

 

知らぬ間に身につけていた、自分の武器というか。

それを探求することがどこかでちょっと楽しくなってた自分がいて、

たとえばアイドル楽曲を歌うのに、元々声質もヴォーカルスタイルも

合わないタイプの自分が、どこまで商品として通用できる歌唱を

完成させられるか(もちろん完全なる完成はないにせよ)、

そんな感覚にいつ頃からかなっていったような気がします。

 

もしかしたら仮歌をきっかけに何かチャンスがあるかも?

と思っている人もいるかもしれないですが、ものすごく遠回りな道か

ほぼそんな展開はないと思った方がいいです。

 

なんでかっていうと、仮歌に求められているのは歌のアイデンティティーではなく、

もうすでに歌う人は決まっていて、その人や企画に合うイイ曲を探してて、

それを最大限イメージできるようにするための歌が仮歌の存在意義だから。

結局のとこ、それ以外の何ものでもありません。

 

もし本当にシンガーとしてデビューしてやっていきたいのなら、

きちんとサポートしてもらえそうなプロダクションかメーカー(レコード会社)の

オーディションを受けるのが身のためだと思います。

 

少し話が脱線しましたが、そんなこんなで、

アイドルだの、J-POPだの、以前は殆ど歌ったこともないような

ジャンルの楽曲をたくさん歌う機会ができ、それによって実は大昔TVで観てた

聖子ちゃんや明菜ちゃん、同級生が聴いてた光GENJIなんかもそうだし、

自分が何となく耳にしたり、目にしたりしていたものが思っていた以上に

感覚の奥深くにアーカイヴされていて、長いアーティスト活動の中で

培ってきたものによってそれらを再現できるように、いつの間にか

なっていたことに気づきました。

 

自分の歌だけ、自分が歌いたいと思う作品だけなら、

その発見はきっとなかったんじゃないかなと思うんですね。

そういう意味で、特別なきっかけを与えてもらったのかなと思ってます。

 

仮歌は正直、難しいです。

そもそも、私の声質は比較的に仮歌向きでない、

というのも、仮歌には声の個性がジャマになるんです。

アーティストには一番必要なものだけど、仮歌には不要なもの。

 

それにロボットみたいに正確な歌唱スキルもないし。

 10人中8〜9以上が心地よく耳障りよく聴ける声が理想です。

 

歌唱力は一定以上絶対に必要だけど、いわゆる一般的な

歌姫的なものというよりは、正確かつ自在にピッチやリズム、

抑揚などをコントロールできるスキルのほうが重要。

最近は補正機材も優秀なものがたくさんあるので、補正できる範囲内

であれば少々のことは大目に見てもらえるかもですが(笑)

 

時にはその楽曲のもつメロディーや言葉を乗せた時の

微妙なニュアンスの良さを作曲家以上に汲み取って体現することも必要。

たくさん仮歌を依頼される人というのは、歌入れがはやいとか、

フットワークが軽いとか、バリエーションが比較的豊富とか、

そういう基本的なことはもちろんですが、多分そういうプラスαをしっかり

もってるからじゃないかなと。そりゃ重宝もされるわけですよね。

 

先日のテイクは自分でもかなり納得いくものが出せました。

仕事上、参考のためにAKBさんや乃木坂さん等の楽曲を耳にすることも多いのですが、

私の場合は無意識に彼女たちの声の成分を分析して脳内ストックしてる傾向が

どうやら高いようで。自分ではまったく意識してないことなので、

ブースに入って流しで歌ってる途中で急に発声イメージが出現してびっくりします。

厳密にいうと、分析してその発声イメージをアウトプットする直前の状態で

アーカイヴしてってるんでしょうね。

 

完全に職業病ですな。

 

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コメント: 4
  • #1

    たかぞう (土曜日, 06 1月 2018 07:18)

    おはようございます。

    よくつんく♂氏も仮歌を担当していたエピソードを聞いたことがありますが、
    相当難しくて気を使う世界だということは想像がつきます。

    コントロール、これ多くのインディーズアーティストや路上ライブをしているシンガーさんのクリアすべき課題ですよね。

    いくら楽曲や歌詞が良くても、高低音のコントロールが出来ずに歌うと雑に聞こえてしまう…。
    観る側として、「この人残念だな…」って感じてしまう点ですね…。

    フットワークやバリエーション、つまり「引き出しが沢山ある」方が、仮歌や商業音楽界で活躍出来る目安なんだろうなと、
    この記事を観て私は思いました。

    改めて、里美さんが活動されている世界って、とある応援している作詞家志望の
    ゲリラで弾き語りをしている方が目指しているレベルと同じかなって感じました。

    ちょっと、他の応援しているアーティストさんに、この記事紹介してきます!

  • #2

    iidasatomi (土曜日, 06 1月 2018 11:02)

    たかぞう さん

    コメントありがとうございます。
    また記事のご紹介についても、感謝します。

    私はアーティストシンガーにはさほど技術はなくても
    極論問題ないと思っています。

    どんなに技術を磨いたところで、それだけでは得られない椅子、
    それがアーティストシンガーという職業だと思うからです。

    もちろんよくよく聴いていると
    さほど歌唱派というイメージではないボーカリストさんが
    えげつないくらい本当は歌が巧いというケースは実は多いのですが、
    彼らが評価されている一番の理由というのは、そこではないんですよね。
    ※もちろん根底で高い技術が彼らの魅力を下支えているのは事実です※

    で、仮歌さんやコーラスシンガーさんがたちの立ち位置が
    どこにあるかというと、たしかに「メインになれなかった」人たち
    であるケースは多く、結果そういう流れになったという場合も多いでしょう。
    私自身もそうです。

    ただ、ここで勘違いしてほしくないのは、
    こういった歌商売は完全に”技術屋仕事”ということなんですね。
    アーティストシンガーは技術屋ではないので、本来真逆とか別モノにあたるわけです。

    あと、コメントにあった作詞家さんというのもそうですね。

    私自身も作詞家ですが、商業音楽の世界において
    作曲家や作詞家というのは実は技術屋ジャンルだと思っています。

    現に以前シンガーソングライター活動しか経験のなかった時と
    作詞家として書いた作品が世にリリースされるようになってからとでは
    別人の感覚でいつも仕事しています。

    つまり、ここにも「ベクトル」というやつが出てくるわけです。

    なので、たかぞうさんが応援されている方が
    作詞家になりたいのか、歌い手になりたいのか、
    シンガーソングライターになりたいのか、それによっても
    やるべきこと、アプローチすべき相手も全く異なるのではないかなと
    個人的には感じます。

    あとは、本当に向いてることは他人の評価で決まる
    ということです。

    これについてはまた記事や、将来ワークショップなど
    できるようになった時にもっと詳しくみなさんにお話できたら
    いいなと思っています。

  • #3

    たかぞう (土曜日, 06 1月 2018 11:14)

    返信ありがとうございます。

    >本当に向いていることは、他人の評価で決まる。

    これ、就活にも十分言える言葉ですね。

    正社員に就いて1~2年以内で辞めていく(私も過去にそんなことがありましたが)のは、
    業界によって異なりますが、ほぼ他人の評価を知ることなく去ることだと思っています。

    なにか色々考えされられる機会が来たようで、嬉しいです。

  • #4

    iidasatomi (日曜日, 07 1月 2018 12:29)

    おっしゃるとおりですね。
    エンタメに関してだけはなぜか別モノのように思われがちですが、
    音楽にせよ芝居にせよ実は一般の仕事と根底は変わらないんです。